進級支援ブログ

医学部の国試の観点から見た効率のよい学習法(藤田の過去問を参考に)~特に卒業試験を落ちてしまい、後がない方のために~

医師国家試験。

医学部に属する人間ならばほとんど必ず受ける必要がある試験です。

6年間再試も留年もなく、順調に思えた学生でも、最後の再試の存在しないこの試験に落ちれば、ただの人になってしまいます。

合格率9割を超えるこの試験が難しいと言われる矛盾、それは今まで受けてきたどの試験とも、ただ一点、覚えねばならない知識が膨大だという点で異なるからでしょう。

皆さんはそんな国試のための勉強を、どのように進めているでしょうか。

ただ漫然と動画講座を視聴し、QBを解いて、解説を読んで、イヤーノートなどの参考書を読んで……

その方法が間違っているとは言いません。なぜなら大半の学生はその方法で合格していくからです。

しかし、毎日国試の問題を解いていくうちに、「もっと効率の良いやり方はないのか」と考えたことはありませんか。

同一学年を繰り返し留年しているような生徒さんは、それが決定的に弱いからです。

今まで積み上げてきた、大多数が同意している勉強方法を変えるのはとても勇気が必要なことですし、困難なことです。

 

そこで今回は、国試の勉強の上で、今の勉強法に少しスパイスとなるようなアドバイス、問題を見る視点について紹介できたらと思います。

 

藤田医科大学の卒業試験は、国試の類似問題や過去問から出題されることで知られています。

問題構成としては本番の国試を意識した必修問題チックなものと臨床問題との組み合わせです。

合格に必要な正答率としては70〜75%程度といったところでしょうか。

実際の国試では必修の合格最低点が80%、一般臨床で70%前後ですので、その平均値をとって妥当な基準と言えるでしょう。

 

さて、以下の問題は実際に藤田医科大の卒業試験で出題されたものの元ネタとなった国試の問題です。(実際の試験問題では本文と選択肢が一部変更されています)

 

 

 

ちなみに国試で出題された時の正答率は62%。

 

医師国家試験 105A1

69歳の男性。意識障害のため搬入された。1年前から高血糖を指摘されていたが特に何もしなかった。1週前から風邪気味であったが、2、3日前から咳と微熱とを認め、前日から食事摂取が不良となった。意識レベルはJCS II-30。身長172cm、体重72kg。呼吸数16/分。脈拍88/分、整。血圧104/88mmHg。舌の乾燥を認める。心音と呼吸音とに異常を認めない。尿所見:蛋白(-)、糖3+、ケトン体(-)。血液生化学所見:血糖760mg/dL、HbA1c 7.8%(基準4.3~5.8)。抗GAD抗体陰性。 この患者の予想される検査結果に最も近いのはどれか。

 

a 尿比重1.010

b Hb 11.5g/dL

c 尿素窒素46mg/dL

d 動脈血pH 7.15

e PaCO2 30Torr

 

上の問題は疾患の鑑別や治療、症状や合併症を問うのではなく、患者のバイタルサインや検査結果について聞かれていて、単純暗記は通用せず、病態の推測が必要で、苦手とする人の多い出題タイプなのではないかと思います。

 

このような臨床問題を見た時、みなさんはどのように、あるいは何から、そして何を考えながら読むでしょうか。

 

まず前提として、これは実臨床でも同じことですが、疾患のわからない患者に当たった時、主訴、年齢、発症機転などからおおよその鑑別疾患を挙げて、そこから問診や検査などで絞り込んでいきますよね。

 

では初めからそのつもりで読んでみましょう。

69歳男性意識障害で運ばれてきた。

この時点で意識障害、しかも高齢男性の起こしやすそうな鑑別疾患を頭に浮かばせておくことが望ましいです。意識障害の鑑別は?AIUEOTIPS程度で十分です。

わからなかった人は後でググるか、イヤーノートを参照。

1年前から高血糖を指摘されていたそうです。意識障害+高血糖。この時点で鑑別疾患がかなり絞り込まれる気もします。DKAかな?それともHHS?
臨床問題は情報の足し算で読む

症状や基礎疾患、患者の既往歴や生活歴のキーワードを頭の中で足し算しながら読みましょう。その組み合わせで原因疾患が1対1対応していることが多いです。わからなかった人はイヤーノートか病気が見えるで「糖尿病性昏睡」を検索。

 

さて、1週間前から風邪気味だったそうです。先行感染あり。その後、食事摂取が不良になり、その後意識レベルがJCS II-30まで落ちています。ご飯食べれてないんだー。

 

呼吸数16/分。脈拍88/分、整。血圧104/88mmHg。意識障害あるけど、頻呼吸とかにはなってなさそう。脈拍少し早い割に血圧低いなーとか思ったりします。

 

バイタルサインはいついかなる時でも必ずチェック

バイタルの矛盾(高心拍-低血圧、低心拍-低血圧など)は必ず患者の病態のヒントになります。特にショックバイタル。変なバイタルをみたときに「ん??」となれるようにしましょう。必ず正解に結びつきます。

バイタル読んだ時点でショック(なりかけ)かも…?くらいは思っておく。

 

舌の乾燥を認める。典型的な脱水初見ですね。

 

心音と呼吸音とに異常を認めない。心不全など、心疾患系ではないよーと言いたいのでしょうか。

 

さて、ここまででコントロール不良な高血糖高齢男性意識障害で運ばれてきた。先行感染脱水所見が見られる。バイタルも心拍数の割に血圧が低くてショックが少し心配。とまとめることができます。

 

この時点でキーワードから考えるに、DKAとHHSの二択まで絞り込めます。

ここから検査所見です。

 

検査所見は何を鑑別したくて書いてあるのか考えながら読む

ルーチーンという言葉こそあれ、意味のない検査はありません。国試で検査所見を読むときは、必ず「この検査はこの疾患を除外させたがっているのだろう」と考えながら読む癖をつけると、検査値の見落としは減ります。たまにびっくりするような検査結果が載っていることも。

 

尿所見:蛋白(-)、糖3+、ケトン体(-)。ここでようやくDKAの線が消えてくれました。尿中ケトンが陰性なら国試的にはほぼ確実にDKAは無し。

 

血液生化学所見:血糖760mg/dL、HbA1c 7.8%(基準4.3~5.8)。コントロール不良な高血糖を表していると考えて良いでしょう。

 

抗GAD抗体陰性。ダメ押しと言わんばかりに1型糖尿病を否定してきます。

 

以上より本問の疾患はHHS:高浸透圧性高血糖症候群 と考えられました。

この疾患は2型糖尿病患者が感染や脱水を起こすことで意識障害、昏睡などを起こす、DKAの2型糖尿病版とでもいうのでしょうか。

病名からして高血糖と著明な脱水により血漿浸透圧が亢進し、循環血漿量は低下します。バイタルの矛盾はここからきていたのだと思われますね。

さて、選択肢の考察にはいりましょう。

a 尿比重1.010

b Hb 11.5g/dL

c 尿素窒素46mg/dL

d 動脈血pH 7.15

e PaCO2 30Torr

でした。

選択肢aの尿比重ですが、高血糖のため尿中グルコース排泄が亢進し、尿は濃縮され尿比重は高くなっているはず。→1.010はほとんど正常値ですので、不正解。

選択肢bですが、今回の脱水は水不足ですので、血管内脱水です。この場合、Hbの総量は変わることなくそれらが溶けている水の量が減るから、血液も濃縮されてHbの濃度は上昇します。不正解。

選択肢cについて、腎不全か?と思いきや、先程のbと同じ考え方で、血管内脱水により血液が濃縮されれば…尿素窒素の濃度も上昇しますよね。よってこれが正解。

選択肢dについて、これではアシデミアですね。先程のバイタルから見ても、呼吸性代償が働いている、と判断できるほどの頻呼吸にはなっていませんでした。さらにDKAと異なりHHSではケトン体が生成されないので、アシドーシスにはなりにくいです。不正解。

選択肢eについて、動脈血二酸化炭素分圧は35~45Torrが正常範囲。選択肢のCO2では「はけ過ぎ」と捉え、過換気を示唆します。これもバイタルと矛盾するから不正解。

 

選択肢の3/5はHHSについての病態理解、残り2/5はバイタルサインから簡単に正誤がわかってしまいました。

このように、実臨床を意識した患者の検査結果を答えさせる問題では、バイタルサイン含めた問診情報が非常に重要な役割を果たすことがわかります。

 

それでは、問題を解いたら?そのあとはどうしたら良いのでしょうか。問題を解いて、全部の選択肢の正誤がわかって正解できたなら、その問題は完璧と言えるでしょう。

しかし、間違えた時はどうしていますか。解説を読んで終わりでしょうか。

解きっぱなしはもってのほかです。国試の勉強において、わからなかった問題こそ貴重です。

 

本問をとく流れの中でも、知らない知識、忘れていた知識、基準値など色々あったかと思います。

多くの人は、それらをイヤーノートなどで確認して、マーカーペンで印をつけるか、手書きのメモでも書いて付箋でマークしたり、挟んだりするのでしょうか。

では仮に、そうやって間違えた箇所、知識をマーキングして、あなたのイヤーノートが付箋だらけ、マーカーペンだらけになったとしましょう。

 

そんな分厚い参考書を、この先あなたはいったい何回読み返すのでしょうか。

復習しよう、と思った時に、チェックしたページ、項目が多すぎて何から手をつけていいかわからず、結局また問題を解いてみて、また間違えて、、、をくり返していませんか。

 

そんなリスクを減らす方法として、私が今回お勧めするのは、非常に簡単な方法です。

 

それは、自分オリジナルの「間違いノート」を作成すること。

 

「間違いノート」とは、自分が問題を解いて知らなかった知識や忘れてしまっていた事柄など、なんでも良いので①問題番号、年度と②イヤーノートなどで調べた、知らなかったことや新しい知識を書いていく、たったこれだけです。

科ごとにノートを分けるのが望ましいです。

 

知っている知識も知らない知識も入り混じった分厚い参考書を読み返すよりも、「自分の知らない知識しかない」ノートを繰り返し読み返す方が、よっぽど効率的な方法だと思いませんか。

その日に勉強し、学んだ知識を「間違いノート」にまとめて、その日の最後寝る前に読み返す。

 

今までの勉強にたったこれだけを付け加えることで、あなたの国試の勉強効率は飛躍的に上昇するはずです。

 

 

 

 

 

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